かわせみ(川蝉だより)Vol.9 2009年6月発行 
●あのBSE(狂牛病)はその後どうなっているの?

牛肉の事情・BSE(狂牛病)事件

 2001年(平成13年)9月に千葉県白井市の農家で日本で初めてのBSE(狂牛病)が見つかった。日本で初めての事例だったため情報量が少なく、農林水産省の不手際な対応などもあり消費者は疑心暗鬼となった。一時は牛肉の消費量が通常の4割にまで落ち込み、さらに牛肉の市場価格が下がり、生産者や外食産業業界に大打撃を与えた。その後2009年3月までに35頭のBSEの牛が見つかっている。今日までの調査では、BSEの原因は羊や牛のくず肉や骨を再生した動物性飼料、肉骨粉の中にあるプリオンであることが定説となっている。今回は、厚生労働省の資料を交え、最近の牛肉事情がどうなっているのかを探ってみた。

最初のBSE事件

 テレビニュースで初めてイギリスの狂牛病の話題を耳にしたときは驚いた。しかし情けないことに、私にとっては対岸の火事だという認識しかなかった。なぜなら日本では水際で厳しく監視していると信じていたからだ。
2001年(平成13年)9月に千葉県白井市の農家で日本で初めてのBSEが見つかった。それから2009年3月までに国内で35頭のBSEが報告されている。BSE発生のそもそもの原因は羊や牛のくず肉や骨を再生した動物性飼料、肉骨粉の中にあるプリオンだといわれているが、考えてみると草食性の牛が動物の肉骨粉を食べるなど共食いもいいところで、誰が考えてもおかしな話だ。経済優先の食肉生産、販売経路の実態や、牛のことをよく知らない無知さがこの問題に拍車をかけていた。そしてBSEは牛だけでなく、人にも感染すると聞き不安はさらに大きくなった。 BSEが人間に感染すると、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれ、ほぼ100%死亡すると言われている。その後の研究で病原体プリオンは脳や目玉、脊髄、内臓の腸の一部に蓄積されていることが解明された。BSEの潜伏期間は、2?10年と長く、まだ発症していないことも考えられる。現在では、イギリスを中心に世界で約130人の感染が確認されているが、さらに世界のどこかで、まだ発生する可能性もある。
 以来、全国の食肉処理施設ではプリオンの全頭検査を実施しており、危険部位は無条件で焼却処理をしている。現在では仮にBSEが出ても消費者の所には絶対に行かないシステムになっているから心配はないだろうが、感染ルートの最終的な解明は未だされていない。プリオンを含んだ肉骨粉がどこから来たのか、日本にどの様に入ってきたのかが不明なままなのである。

正確な情報が伝えられていない

 一方では、このBSEの感染発症ルートはすでに解明されているという。しかし発表することで、当局が困るさまざまな事情があり、不明のままにしてあるのだ。日本で、まだBSE発症例の報告が少ないというのも、仮に病気がでると、生産農家や同じエリアの畜産農家が致命的な打撃を受けるため、不安な牛は肉牛生産者が、自ら処理してしまう。そのように秘密裏に処理されてしまい、病気のデータが表面には出てこないという背景がある。これではルートの解明できない。北海道では、病気が確認されると、その牛を届け出た農家に研究協力金を支給することにしているが、いまひとつ成績は上っていない。

ずさんな北米牛肉
 カナダのバンクリーフ農相は、2003年5月20日にカナダのアルバータ州で同年1月に処分された8歳の肉牛がBSE(牛海綿状脳症)に感染していたと発表した。これは北米産の感染例としては初めてだった。日本にとっても重大な問題だった。早速アメリカはカナダからの食肉輸入禁止措置を発動し、日本もすぐに肉製品の輸入を停止した。
 BSEに感染し、1月31日に死亡した牛の頭部は、研究所に届けられたが、研究員の手が足らず4ヶ月後の5月16日に検査された。そして英国で最終判定されたのが5月20日だった。カナダでは、発症した牛の農場で飼育されていたほかの150頭も検査後に処分されたというが、正式発表されたのは、感染がわかってから4ヶ月も後のことなので、日本にはすでに、カナダや米国から感染肉が入っていた可能性がある。
 当時の記録では、牛肉輸入量の約4%、2002年には生体牛98頭、肉では、1万9000トン余りがカナダから日本に輸入されている。カナダからの貿易量は比較的少なく見えるが、これにはカラクリがあり、カナダからアメリカに入る牛は、2002年の統計で見ると、成牛168万頭、肉で37万8000トン。カナダの飼育元の大半の子牛はアメリカから入っている。肉になってからもカナダの輸出の8割はアメリカ向けだから、その肉がラベルを変えて米国牛として日本にも大量に来ている。
 BSE感染牛の原産国がわかれば、その国にBSEの元があるということもわかるが、トレーサビリテーは全く効いておらず、その牛たちの生育が、全てカナダ産であるのかどうかも確認できない状況だ。要するに牛に関しては、カナダとアメリカに国境がないようなもので、牛の出身地を特定することは困難だ。さらにカナダとアメリカの明確な量もわかっていない。日本ではトレーサビリテーの義務化(全頭検査)を主張しているが、アメリカは「貿易障壁だ、保護貿易だ」と圧力をかけてくる始末だ。
怖い話をしているわけではない。スーパーマーケットに行けば、アメリカ産の牛肉が売られている。食品は体内に蓄積されていくものである。だからいまは、価格の安いほうが良いと思っていて消費していても、何年か先に、どういった影響が出てくるのかわからない。後々ヤコブ病にかかってから泣いても遅いということなのだ。

安心の信州牛
 JA全農長野で確認したところ、我が信州では、元々牛の餌に肉骨粉などは使っていない。現在確認したところ、20年前からの記録にも使用例は一切なく、それ以前もなかった。信州牛は極めて安全な牛肉である。また現在各飼育牛にはトレーサビリテーという生産の履歴書が付いて回っている。日本の畜産農家は二重三重のチェック態勢にして食の安全を心がけている。

食べ物の履歴書トレーサビリティシステム
本では狂牛病防止、早期発見対策の一つとしてトレーサビリテーシステム(履歴情報遡及可能制度)という制度が導入されている。これは一頭の牛や牛肉の生産から消費までの流通の情報を確認できる仕組み。日本では2001年の12月から個体識別システム(つまり各牛に背番号をつけること)が導入され、その牛と肉の移動経歴がわかるシステムになっている。牛の両耳に黄色いバーコードと番号が付けられてるのですぐにわかる。ただし、食肉の処理場で耳票が取り外されてしまうので以後の加工や流通の追跡は難しいが、以前に比べるとかなり正確に追跡できるシステムになっている。日本ではさらに厳しく、店頭に出てからでも追跡できるシステムができている。2004年になって輸入量の多いアメリカには、先のBSEの発生に伴い、全頭検査を要求していた。しかし食糧戦略したたかな米国によって、若い牛は外すということで押し切られ、結局は米国に屈した形で認める方向になった。
2003年からは米も産地バーコード、精米にもバーコードが導入され、店頭で確認できるようになった。日本では今後、残留農薬、ダイオキシン、遺伝子組み替え食品などで総てにこのシステムの導入を考えている。