かわせみ(川蝉だより)Vol.7?2008年8月発行 
●食料とそれを支える農業が破滅に向かっている

  2008年世界農林業センサスの長野県調査(世界農林業センサス=1950年の国際条約に基づき、10年ごとに農林業の実態調査を実施している【時代で数字も変わる】)によると、1995年の調査と比べ、農家の数は約7%減少し12万6千8百戸余り。耕作放棄土地は約12%増え、11万2千3百ヘクタールとなった。農家戸数は県内総世帯数に対して、約16%となっている。わかりやすく言うと、農業はいま破滅に向かっているということである。たとえば長野県内では、10戸分の食料を1.6戸で生産しているという計算になり、かなり深刻な状態となっている。全国的に見ても同じような規模で、こうした農業耕作放棄は急速に進んでいる。
  東京大学大学院の石弘之先生は「日本人は食料や農業、生活環境が破壊に向かっているという危機感に全く乏しい」と強く指摘している。国連食糧農業機関によると、現在世界では8億3千万人の万年栄養不足人口を抱え、発展途上国では5人に1人が飢えに直面している。こうした飢えに苦しむ人達の数は、年間1千万人ずつ増えているという。
  現在の地球人口は62億人だが、二十一世紀後半には、およそ100億人の地球人口が想定される。やがて人口爆発が起きて、大変な食糧不足になるだろうと予測できる。振り返れば、欲望とむさぼりの二十世紀であった。物質的に豊かになる為に、経済や生活活動は地球環境の許容を越えて、ついには破壊へと動き出してしまった。人口が増えるに伴い食糧増産の見返りに、地球上のあちこちでは森林を失い、農地を酷使して荒地や不毛砂漠地を増やし、川や湖水の水を干しあげてきた。その一方で、二酸化炭素の排出量が増え、地球の温暖化を招いている。
  地球の将来の食糧基盤を破壊し、奪いながら、この環境破壊は今もなお進んでいるのだ。このままだと誰が見ても、世界的な食糧危機がくることは明らかである。しかし我が日本人は、相も変わらず食料や農業の破壊という危機感に乏しい。金に物をいわせて食料を好きなだけ輸入し、好きなだけ食べて、好き放題に残飯を放出している。ある調査によると日本の家庭では、購入した食料の13%を調理もせずに捨てており、食べ残しの残飯を含めると40%もの食料を捨てていることになる。この様な乱暴な食生活を続けていれば、やがてとんでもないことを引き起こすに違いない。貧困な農業、食糧行政、忘れられている食農教育、大変な時代はすぐ目の前に来ているが、残念なことに国家の礎たる農業のことを心配している人々は大変少ない。加えて温暖化による世界の天変地異は毎年激しくなっている。このままだと、いずれ農業生産基盤は失われ、自然環境も壊滅的に破壊され、我々の食料は必ず無くなってしまうだろう。
  農業の喪失は経済社会をも狂わせ、一方では人々の情操をも狂わせてしまった。特に子供への影響は深刻かつ大きなものがある。日本人が米を食べなくなり、欧米の肉食に傾倒した食生活が、昨今の青少年の情操を狂わせ、凶暴化を呼び、おぞましい事件に結びついている一つの要因になていることに、誰も気が付いていない。片や人々の健康は生活習慣病に蝕まれている。実は食糧は、人の心も健康も変えてしまい、一国を滅ぼしてしまうというほど影響力が大きいのだ。
  日本人達よ目覚めよ、今の内ならまだ救える。

(文責 堀 六平)